2014年9月6日土曜日

その4 ロシア語

4.ロシヤ語

在鮮当時より幾らか勉強してゐたのたが、なかなか上手にならない。列車中のドーナット、ピーナットの点呼やら、ダバァイダバァイ等チンプンカンプン判らなかったが、いざ工場に出る様になるとロスケと接觸する関係上どうしても覺えざるを得なくなってきた。
それ迄はノートに日本語で書いてこれを讀んではロシヤ語では何と云ふ、と覚えてゐたのだが、仕事場ではいろいろな言葉を聞いては、あれは何の事だらうと云った具合で覚えるんだから、割に早い発音も近い発音ができる。数字が一から十迄覚えるのに苦労した。現在では数字だけは千以下だったら自由に云へる様になったが、列車中でドーナツとかピーナツとか聞こへていたのも無理ないと思った。朝晩の挨拶、食物の名前とかを一番先に覚える。その次に聞くのが「今何時ですか」と云ふ事だ。此の問に対しての返事を判る様になる迄約一年位要した。時間は食物の次に、作業時間に関係あるから必要なのだ。
工場等の休憩時間を利用してロスケと話すんだが、最初は手まね足まね、まるで唖と同じだ。指さしてみて、ポロスキーでは、と聞き、それによって覚へる。ロスケの方も日本人が珍しいから、お早う、とか、サヨナラ、と日常会話の単語を聞いて面白がってゐる。
言葉のことで面白かった事は、馬車を操ってゐた○○君が、所長の自宅に用事で行って、奥さんより、明日は畠を耕しに行くから馬車に馬糧を準備して午前中に来て呉れ、と云はれたのを早判して、馬車に馬糞を一杯積んで所長宅に行ったとの事。そしたら、馬糧を積んでくると思ってた奥さんが、馬糞を一杯積んで来られて面食らったとか。
そう云った笑い話はカタコト交りしか喋れない我々には仕事の上ではちょいちょいだ。気のいゝロスケだったら笑話で治るが、立の悪いのに引っかゝったらブンなぐられる。
ロスケは一番先にチンポ、オマンコとかバカヤロとか云ふ言葉を覚えた。街なんかを通る子供が意味を知ってか知らんでは、ヤポン、バンザイと呼びかける。どう意味かロスケには聞いてもみなかったが、日本が今度無條件降服したことをさして輕ベツの意味らしかった。
我々が早く覚えた言葉は前に挙げたのもあるが、ヨッポイマーチ(馬鹿野郎。支那語の「マーラガピイ」と同じ)がある。之は仕事をやり損ったりすると直ぐロスケが口ぐせの様に使ふ言葉だ。また、我々がそれを使っても大して怒りもしない。

我々が聞いて一番感じの悪かった言葉は何と云っても、ダバァイだ。之は、ヤレと言ふ意味が一番多いだらう。仕事などしてゐる時、ちょっと捗らなかったり、休んだりしてゐると直ぐロスケが来て、ダバァイ、ダバァイと追ひ立てゝ仕事やらせる。之だけ朝鮮以来よく使はれて鍛はれてゐるので之を聞くと仕事もしたくなくなる。


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アジン、ドバー、ツリー、チティーリ・・・・、スパシーバ、オーチンハラショー・・・。今でも、私たちが子供のころに父から聞いた、これらのロシア語は、よく覚えています。中でも、上記のように、数の数え方は苦労して覚えたこともあって、よく話をしていました。

文中に「ポロスキーでは」というのが出てきますが、よくわかりません。「ポーランド語ではどう言うの?」という意味かとも思いますが、不明です。
ロシア人のことをロスケと呼んでいますが、ロシア語でロシア語、ロシア人のことをロスキーということから、「露助」というふうにあてて云っていたのだと思います。

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